1985年10月

「絵本なら読める」、「詩の本は嫌い」と先入観を持って、勝手に読書範囲を狭めている子が多い。一方近ごろでは従来の枠を超えて、読者を特定しない本も多く、大人の絵本などと新しいジャンルに分類できるものもある。また科学の本にしばしばドラマが隠されていることもあるし、詩の本が同時にすばらしい絵本であることもある。
 本と子どもをよく知っていれば、その子の読書範囲を広げていくことは容易であろう。

おふろでちゃぷちゃぷ

 タオルと石けんを持ったアヒルさんに誘われて、大急ぎでセーターとズボンをぬぎ、はだかんぼになっておふろにとんでゆく子。
 ――おふろでちゃぷちゃぷ、せっけんぶくぶく、あひるといっしょ、おふろ、ぼく、だーいすき――
 岩崎ちひろの絵は明るく、松谷みよこのことばもリズミカルで、この本を読んでやるために、子どもをおふろにいれたくなるだろう。「はやくはやく」とせかすあひるさんと「まってまって」と急ぐ子どもとのやりとりも楽しい。


じろり じろり―どうしてけんかになるの?

 平和に暮らしていた白い象と黒い象がいつしかおのおのの群に分かれ、戦争を始める。戦いの嫌いな象はジャングルに隠れてしまい、そのほかの象は皆死に絶えてしまう。
 やがてジャングルから、隠れていた象の孫の灰色の象が出てきて平和な生活を始めるが、どうも近ごろその灰色の象達が、耳の大きな象と耳の小さな象に別れ、にらみ合うようになった......という話。
 海外では多くの人種が混じって暮らしているが、自国の文化をきちんと身に付けたうえで異文化を理解し、お互いの相違を認め合うのでなければ本当の平和とは言えない、と大人は理屈でこの本を読むが、子どもはマッキーの個性的な絵で感覚的に理解するだろう。
"どうしてけんかになるの?"という副題や"チガウッテスバラシイ!"と書かれている見返しの一行も見落とさずに読んでほしい。


霧のむこうのふしぎな町

 六年生のリナは父親の薦めで"霧の谷"という東北地方の小さな町にやってきた。そこには変わった人ばかり住んでいて、生活費分ぐらいは自分で稼がなければいけないと言われる。学校と塾の往復だけで母親の手伝いもしなかったリナは「仕事なんてできません」とベソをかくが、意地悪なピコットばあさんは、さっさとリナの仕事先を決めてしまう。本屋、骨とう屋、おもちゃ屋と一生懸命手伝ううちに町のみんなと仲良しになり、ピコットばあさんもどうやら本当はリナが気に入ったようで、別れの時、もう一度この町に迎えてくれるという約束のカサを荷物にしのばせてくれる。
 ヨーロッパによくある小さな町を日本の田舎に設定して、読者を幻想の世界に誘い込む。


きりがみあそび

 日本の子どもの一年間の行事に合わせて、飾って遊ぶ切り紙細工を紹介している。簡単なので、幼い子にも無理なく作れるだろう。