1985年11月

 絵本はハードカバーの方が良いというのが定説だが、中にはペーパーバックの薄い本の方が好きな子もいる。日本の母親は、つい質の良い方を押し付けがちだが、子どもだってたまにはお茶漬けが食べたいのだろう。とは言え、翻訳絵本の場合、日本で大きさなどが変えられていることもあるので、機会があれば原書も入手しておきたい。まず、子どもを本好きにさせること、そのうえでよい本を選ばせること。

りんごのきにこぶたがなったら

 おかみさんとふたりで市場へいったおひゃくしょうは、こぶたが気に入り、世話が大変としぶるおかみさんを「ふたりでやれば簡単」と説き伏せ、こぶたを全部買い上げる。ところが家に帰るとおひゃくしょうは「こぶたが咲いたら」とか「こぶたが木になったら」とか言って手伝おうともしない。
 その度に、こぶたはころころと庭に咲いたり、木になったり、空から降ったりするが、それでも手伝わない。とうとう「こぶたが春の雪のように消えたら」と言った翌朝、こぶたは全部消えてしまう。
 手伝いの嫌いなお父さんが、ぜひ子どもに読み聞かせてほしい本。


ことばあそびうた

 舌の回らぬ幼児から、総入れ歯のおじいさん、おばあさんまで、家族揃って楽しめる本。スムーズに音読すれば二分間で全部読み終えるが、アクセントを正しく、他人に分かるように読むのは難しい。ひらがなばかりなので多少の教養がないと読みこなせない。
 さらざるささらさらささらって/さるさらりさる/さるさらば――などは大人向き、やんまにがした/ぐんまのとんま/さんまをやいて/あんまとたべた――とか、かっぱかっぱらった/かっぱらっぱかっぱらった/とってちってた――などは親子で楽しめる。


シェイクスピア物語

 ラム姉弟の同名の書の訳ではなく、このほどシェイクスピア作品の全口語訳を完了した著者自身の筆によるものである。ラムの作品のように、子ども向きに書き直してあるのではなく、原作のセリフを活かして凝縮してあるので、大人にも読みごたえがあり、子どもにもおもしろい。
 四大悲劇に"夏の夜の夢"などを加えた九編が収録されており、この本を読んでから芝居を見れば、多少の英語力の不足は、俳優が演技で補ってくれることだろう。
 巻末にはシェイクスピアの劇作品の一覧表を添えた解説もあり、英国在住の人ならずとも、原作を読んでみたい気分にさせられる。"教養の書"としてではなく、通俗作家シェイクスピアの舞台を見る心持ちで読むことができる。


下村式 唱えておぼえる漢字の本 1年生

 わらべ歌のように書き順を唱えながら漢字を覚える口唱法がこの本の特徴。
 文字の成り立ちのおもしろさも分かり、漢字で遊びながら、漢字を学べる本である。