1984年9月

 読み聞かせは本を通して心を伝える、といっても、なかなか信じて貰えない。活字を声に変えるだけでは伝わるはずがないからと、解説や感想、お説教まで加えたがる親もいる。
 が、『ももたろう』だけを聞かせて育てたわが息子達は、すっかり私の好みを知って、詩集であれ推理小説であれ、私の気持をくんで買ってきてくれるようになった。一冊の本を一緒に読んだひとときがあれば、金属バットで殺される心配はない。

クシュラの奇跡―140冊の絵本との日々

 幾つもの重い障害を持って生まれた少女クシュラ。夜も昼も抱いているしかないこの子に、母親は次々に絵本を読み聞かせた。視力も聴力も極度に弱いクシュラは、普通なら、喋ることも考えることもできない子に育ったであろうが、本に造詣が深い家族の中に生まれたからこそ、四ヶ月で本に興味を示し、三歳で標準以上の知力を持ったのである。読書が、実体験の代償となることが実証されている。
 添えてある絵本の色刷り写真集は、子どもにとって魅力的であろうが、この本は母親のための案内書である。この本を読むと、橋渡しをしてくれる大人がいなければ、子どもにとって置いてある本が、無意味であることがよくわかる。
 海外で、手さぐりの育児をする若い母親の必読書である。(これは論文として書かれているので、後記から読むと読みやすい)


どうぶつ あいうえお

 もぐらはもともともぐらだけれど、もぐらなくてはものたりなくて、もったいなくて、もっともっとと、もぐります――とか、せまいせかいで、せきせいいんこ、せっせとせいのび、せいくらべ、など、言葉を覚える本と銘打つだけあって、言葉も豊かで、絵も美しい。ましませつこの絵は、ワイルドスミスに似た彩りのあざやかさと、日本画の静けさが溶け合って、子どもの夢をふくらませる。


ブリジンガメンの魔法の宝石

 夏休みもそろそろ終わり。勉強を放り出して読書三昧にふけった子もいるだろう。アラン・ガーナーのこの四冊のシリーズは、いずれも民話や神話を土台にして書かれており、読む人をその世界に引き込まずにはおかない。ゆうれいもちょっと出てくるし、夏休みにはちょうどいい。
 ガーナーの原文は、英語を外国語とする人々にはいささか難解だが、泉鏡花の作品と同様、その癖のある文章は独特な雰囲気をかもしだす。英語に浸っている海外の生活の中で、ぜひ原文と読み比べてほしい。
 お母様方は日本語訳を先に、お子様方は原書を先に、どうぞ。


えんにち

 第一頁に「これから ふたりは えんにちにでかけます」という一行があるだけで、あとはなんの説明もないが、頁を繰るごとに、縁日の雑踏の中に歩を進めている思いがしてくる。