1989年2月

 書物の価値、読書のたいせつさに、ようやく人々の関心が集まり始めた。が、これが恐ろしい。すぐ商業ベースに乗ってしまう。
 良い本のリストを作るとか、海外に送るとか言うが、対象になる子どもの性格、興味、読書力が、どのくらい分かっているのだろう。誰にでもおもしろい本はあり得るが、誰にでも良い本なんてない。
 その子の状態をよく知っている大人が、一読して選んでこそ、その子にとって最良の本を選ぶことができる。

空とぶ船と世界一のばか

 この物語は、ロシアの代表的な昔話の再話である。
 昔話によく出てくる三人の兄弟、そしてばかな末の弟。
 日本ならできの悪い子ほどかわいがるのに、この母親は上のふたりばかりでばか息子には食事もろくに与えない。
 ある日、王様からおふれが出て、空とぶ船を造った者にはお姫様をくださるという。兄さん達に続いてばかもお城を目指して旅立った。
 絵も立体感があって色彩も明るく、神宮輝夫の訳も明解で楽しげである。


小さなヒッポ

 ヒッポは、小さなカバの赤ちゃん。いつもお母さんの後にくっついてチョロチョロ。昼は川の中の泥の寝床でまどろみ、夜はお母さんや仲間と、草地にえさを食べに。こうしてヒッポはカバにとって大事なことを覚えていった。
 そしてヒッポがカバのことばを覚える日がやってきた。お母さんは、カバにとっていちばんたいせつなことばをヒッポに教える。
 そのことばは......。
 色彩の美しい版画絵本である。厳しい動物の世界とその生活をカバの子ヒッポを通して、ふんわりとユーモラスに描いて見せてくれる。


世界のお天気めぐり

 「お天気めぐり」という題から想像するのとは、内容がだいぶ違っている。とても、お天気だけの本とは言えない。『世界、お天気に関係あることないこと、何でも辞典』とすれば、少しは内容を表せる。
 元気象庁予報官の著者が書いた理科の教科書であり、社会科の参考書であり、そして楽しい読み物である。
 アジア・アフリカ編と、ヨーロッパ・アメリカ・オセアニア編とに分かれているが目次、小見出しに工夫がありことばも選んで楽しげなので、つい読んでしまう。
 例えば西ヨーロッパのベネルクスは、その三か国の頭文字をとった呼び名で、北海道ぐらいの広さしかないが人口は多いなど、知識を与えてくれる。
 家庭にも学校にも、ぜひ揃えてほしい本である。


日本・昔話の劇

 十五の話はなじみ深いものばかり。リズム感のあるセリフもおぼえやすそうだし、劇中の歌の楽譜がついているのも親切である。
 もとの昔話が脚色されてしまっているので、良い絵本を併用すると良い。