1986年1月

 幼児の読書が人格をつくる、と脅す気はないが、実例は多い。
 つい先日も、サークルの友人と音楽会で会って絵本の話になり、同じ絵本、同じ童話が愛読書だったと知って驚いた。育った環境も違うふたりが、中年になって同じサークルで出会い、同じ音楽家のファンになったのは、幼時に繰り返し読んだ数冊の本の影響、と言えないだろうか。年の始め、おせちを囲んで、親子で思い出の一冊を語り合うのも一興。

魔法使いのABC

 この本は両側が表紙で裏表紙がない。ところが、どちらの表紙から開いても、Aから始まりZで終わる、という不思議な本である。
 魔法の本だけに、ただ開いてみても、美しい色どりのゆがんだ形が描かれているばかりで、魔法の鏡がなければ読みとれない。その鏡は付録の銀紙で作るのだが、スペアもあり、それもなくした人のために、何屋さんで何を買えば代用になるかまであとがきで解説してある。しかし、裏表紙のない本のあとがきはどこにあるのだろう......。
 あとがきのページにはちゃんと紙がはさんであり、ゆがみ絵を描くための魔法の方眼紙になっている。こういう心遣いに加えて、各ページの絵やアイディアが実に楽しい。


クラバート

 少年クラバートは、不思議な夢に誘われて、荒地の水車場の見習いになる。食うや食わずの浮浪児暮らしよりはまし、とつらい仕事にも堪え、やがて魔法を習うようになる。
 次第に親方の秘密を知り、逃げ出そうとするが、それには愛し合う少女の命がけの協力がなければできない。
 ドイツ伝説に取り組み、十一年の年月を掛けて仕上げた作品で、その気分転換に書いたのが、あの『大どろぼうホッツェンプロッツ』だという。
 ――仕事では厳しい親方だが、魔法を教えるときはしからない。覚えるのは自分のためだから――という辺りに、教師だったプロイスラーの願いが込められている。


ハチのおかあさん

 アシナガバチの巣づくりを、最初から最後まで、美しく鮮明な写真でつづっている。
 ある春の日、偶然ハチの巣づくりを見付けた喜び、一つひとつの部屋づくり、産卵、幼虫に青虫を食べさせる様などを、克明に撮影し、簡潔な文章を添えている。
 作者自身が付きっきりで観察しただけに、アシナガバチへの愛情が読者にもひしひしと伝わり、夏の終わりに心ない人間がいたずらにその巣を壊したシーンを見て、横に落ちていた空カンと棒切れを、写さずにはいられなかった作者の心情がよく分かる。
 巣に、花に、群がるハチの写真は、生態というより、ドラマを感じさせる。


おおさむこさむ―わらべうた

 昔ながらのわらべうたは、やはり母親が節を付けて子どもに歌い聞かせてやりたいもの。