1986年2月

 おとなが漫画を気にしている間に、コンピューターゲームを文字化したアドベンチャー・ゲーム・ブックとやらが現れた。サイコロで武器を選び、冒険か平安かを選んで、自分の選択で物語を進めるこのゲームは、やはり一種の本であり文学なのだろうか。
 それならば、優れた児童文学作家のコンピューターゲーム分野への積極的な参加がほしい。まがいもののメルヘンが、子どもをお話嫌いにしてしまわないうちに......。

にわのわに

 これは"たけやぶやけた"のように上から読んでも下から読んでも同じになる文章(回文)を集めた絵本だが、作者の考えた回文の一つ一つが、何ともほほえましい。
"まんとひひとんま""ねつきいいきつね""にわのわに"など、作者自身の絵ともども、親子で楽しめる。
 同じことばあそびの絵本シリーズの『わにがわになる』といっしょに、ぜひそろえたい。


ゴッゴローリ伝説

 これは小・中学生から大学生まで、年齢に応じてさまざまな形で演じられそうな戯曲である。
 作物の不作を恐れた男が、毎年の豊作を条件に、地の精ゴッゴローリに生まれてくる娘をやると約束してしまう。美しく成長して恋人もできた娘を見ると胸が痛むのだが......というありふれた設定でありながら、意外な展開を見せる。古くから伝わるドイツの民話である。
 日本語訳のことばも平易で詩のようなセリフが多いので、日本語習得を兼ねて、海外の子ども達に上演させるのにも最適であろう。また朝倉摂の描くキャラクター画にもひかれる。
 なお作者のミヒャエル・エンデは、今年八月に行われる国際児童図書評議会(IBBY)東京大会に、講演者として来日が予定されている。


日本の民話

 もも太郎、かちかち山、さるとかに、一寸ぼうし、したきりすずめの五大おとぎばなしのほか、『夕鶴』(鹿児島県)で知られる『鶴のおんがえし』など六十編が、地域別に収められている。


野ばと村の長ぐつぼうや

 野ばと村の長ぐつぼうやは、長ぐつほどの小さな男の子だが、自分のゆりかごにおとなの人を寝かせると、その人が眠っている間は、そのおとなと同じ力を使うことができる。
 お父さんもお母さんも仕事に行ってしまって、ひとりぼっちになった長ぐつぼうやは、外へ忍び出て、雪だるまのおじいさんとおばあさんを作る。雪だるまのおじいさんとおばあさんは長ぐつぼうやをとてもかわいがるのだが、ぼうやは次から次へととんでもないことを思い付き、おとなをゆりかごで眠らせては、自分の目的をやり遂げてしまう。
 雪深い長い冬、ロシア紅茶でも飲みながら、毎晩一章ずつ、親が語り聞かせる姿が目に浮かぶ。