1989年6月

 「海外に持って行く良い本のリストがほしい」とよく言われるが、誰にでも適している良い本のリストなどあり得ない。「せめてこの欄の本を選ぶ参考にしているリストを」と言うが、使うのはリストではなく本屋の店頭である。十冊ほど立ち読みし、五、六冊買って帰る。落ち着いて読み返すと半分は使えないから、図書館や自分の本棚から補う。本はリストで選ぶものではなく、手で触れ、目で味わって選ぶべきである。特に子どもの本は。

おいしいものつくろう

〔てをつかう。くふうする〕というシリーズのお料理編で、料理研究家の作者が初めて、子どものためにまとめたもの。サンドイッチ、御飯といった基本的なものから、おにぎり、サラダのような簡単な料理、カレーライス、飲み物、おやつ等、メニューも多彩である。
 パステルカラーの可愛く詳細な図解が、子ども達に作ってみたい気持ちを起こさせる。
 料理は子どもの自主性·積極性を育み、暖かい親子関係をも生み出してくれる。
 日常の食事のお手伝い以外にも台所を開放して、本当のコックさんやお母さんの気分にさせてやりたいものである。
 専門家が書いているだけに調理のポイントが押さえてあり、手を洗うこと、後片付け等、注意も行き届いている。お父さんも必読のこと。


ねずみのティモシー

 ねずみのティモシーは発明家。妻のために料理の機械を作ったのが始まりで、次々と発明を続け、ねずみ達の生活は何もかも機械化。便利にはなったが、ねずみ達は機械に振り回され、家族で生活を楽しむ時間もなくなってしまう。
 ティモシーの子ども達も、お父さんと遊べなくてみんな不機嫌。そんなある日、ティモシーが拾った子猫がきっかけで、楽しい暮らしが戻った。
 現代の人間社会をねずみの生活に置き換えて、子どもにも「何が一番大切か」が理解できるように、話が進められている。ねずみ達の表情が、たまらなく可愛い。


まほうをわすれたおたふく魔女

 ニキはおく病で弱虫な子。プールには飛び込めないし木登りもでんぐり返しもだめ。遊び場では子ども達に「ニキ、弱虫ニキ」とはやしたてられ、いつも仲間外れ。
 そんなある日、おたふく風邪にかかって寝ているニキの所に、おたふく風邪を治す"おたふく魔女"の使いだという黒い猫が、やってきた......。
 読み終わった時、親と子の心の中に、暖かいものが残る。挿絵のニキや魔女も、物語のイメージにぴったり。


絵本・古事記 神々の風景

 四十六枚の絵が力強く語りかける日本の創世記。
 歴史の教科書からはみだした日本の神話を、今、子ども達に、物語として語り継いでゆきたい。