イリヤ・ムウロメツ

 これは、ロシア民族の間に、十一世紀から十四世紀にかけて成立した、ブィリーナと呼ばれる叙事詩を筒井康隆が日本語で書き上げたものである。
 文章も、書き方も、いつもの筒井康隆調ではないのでファンは面喰うかもしれないが、読んでみればこのおもしろさはやはり彼のものである。
 主人公イリアは三十歳まで立つことも歩くことも出来なかったが、ある日、三人の旅人が現れて人並み勝れた力を授け、国とロシア正教のために働けと言い残して去る。イリアはすぐさまキエフの都に旅立ち、巨人スヴャトゴルに会う。
 いかにも叙事詩らしい壮大な物語の展開に、手塚治虫の挿絵がまた素晴しいだけに、単行本の絶版が惜しまれる。

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