うたうしじみ

 ある日魔法使いは、夕食に食べようとしじみを買ってきたが、安心しきって眠っている様子を見ると、どうしても食べる気にならない。口は悪いが心は優しい猫のトラジも、煮えたぎった湯の中へ、しじみを入れることができず、とうとう海に返すことになる。
 表情豊かに描かれている絵を見ながら読んでいると、平気でしじみの味噌汁を作る母親が残酷な死刑執行人のように見えてくるから御用心。
 幼少期を海外で過ごし、米国の大学を卒業した作者の、繊細で豊かな感受性が、コミカルな絵と奇想天外な物語の陰にかぎりない優しさを匂わせる。
 帰国児の多くが持ち帰るこの種の感覚と才能を、親や学校の先生は無視したりせず、伸ばしてやりたいものである。