1988年12月

 本に対象年齢などというものはありえないということは、子どもと本をよく知っている者にとっては常識だが、いまだに「何年生向き」という表示が跡を絶たない。確かに、読み物の中には、どんなにゆっくりと分かりやすく読み聞かせても、子どもには理解できない内容のものもたくさんあるが、絵本なら絵の助けを借りて、子どもは子どもなりに理解し、大人は大人なりに楽しむことができる。
 それが、良い本の条件でもある。

サンタおじさんのいねむり

 奥さんに「あなたは、おなかがいっぱいになると眠くなるから、食べてはだめですよ」と言われていたのに、お弁当を食べてしまったサンタのおじさんは、クリスマス・イヴだというのに、森の中で眠ってしまう。
 そりの上に山のように積まれたプレゼントを見て、森の動物達は......。
 あのサンタクロースに世話やきの奥さんがいたり、仕事の前にお弁当を食べてしまい、プレゼントも配らずに眠り込んだり、なんだか家のお父さんと同じだナ、と子ども達は親しみを感じるとだろう。そして、そんなサンタクロースが遠い国のどこかに、動物達に囲まれて暮らしている姿を思い浮かべるに違いない。


うたうしじみ

 ある日魔法使いは、夕食に食べようとしじみを買ってきたが、安心しきって眠っている様子を見ると、どうしても食べる気にならない。口は悪いが心は優しい猫のトラジも、煮えたぎった湯の中へ、しじみを入れることができず、とうとう海に返すことになる。
 表情豊かに描かれている絵を見ながら読んでいると、平気でしじみの味噌汁を作る母親が残酷な死刑執行人のように見えてくるから御用心。
 幼少期を海外で過ごし、米国の大学を卒業した作者の、繊細で豊かな感受性が、コミカルな絵と奇想天外な物語の陰にかぎりない優しさを匂わせる。
 帰国児の多くが持ち帰るこの種の感覚と才能を、親や学校の先生は無視したりせず、伸ばしてやりたいものである。


オフェリアと影の一座

 ひとり者のオフェリアおばあさんは、町の小さな劇場で、客席から目立たない小さなボックスの中から役者がつかえないようにせりふをささやき続けるのが仕事だった。オフェリアさんはどんな芝居のせりふでもすべて暗記していたが、劇場はつぶれてしまう。
 最後の公演が終わった後、ひとり思い出にふけっていたオフェリアさんは、誰のものでもない影法師に出会う。以来、持ち主のない影が次々と集まり、オフェリアさんは彼らに芝居を教えて影の一座を作る。
 エンデはいつも、聞いたこともないような物語を書いてくれる。
 影の一座が光の一座に変わる情景が素晴しい。


てんさらばさら てんさらばさら

 東北地方に伝わる「けさらんばさらん」とも呼ぶ不思議な生きもの(?)のお話。
 ましませつこの絵が、鮮やかな彩りを見せる。