ふたりのイーダ

 これは、いなくなった持ち主を捜して歩きまわる小さな椅子と、イーダという女の子の物語である。「イナイ、イナイ」とつぶやく不思議な椅子との出会い、イーダが原爆で死んだと知ると自らバラバラにくずれてしまう椅子の哀しみをとおして、読者は死別のつらさと、それを避けられない戦争の怖さを知る。
 戦争を子に語り継ぐことは、親の役目とはいえ、自らの体験を持たない今の親達には難しく、まして、日本の情報そのものが少ない海外で、歪んだイメージを与えずに戦争を語るのは至難の業である。ドキュメンタリー風に生のまま戦争を描いた作品は多いが、日本で読むのとは環境が違いすぎて、子どもの心への影響も案じられる。その点この物語は、非常に優れたファンタジーでありながら、無理なく戦争の傷ましさを浮き彫りにし、なお夢の残る作品である。