1987年11月
高校二年の息子の宿題におもしろいものがあった。女子の家庭科の宿題の手作り絵本や児童文学論に、男子が感想文を書くのである。なかなかの力作ぞろいだったのだが、一つ、気になった。男子のほうが数が多いので、頼まれない男子には絵本や児童文学論に触れる機会がない。料理や裁縫はできなくてもいいが、児童書の勉強は男子にもたいせつである。良い父親になって子どもに本を読んでやる日のために。
わにさんどきっ はいしゃさんどきっ
どこかに行くのを嫌がっているわにさん。どこかに行くのを嫌がっている歯医者さん。でも、どちらも、どうしても行かなければならないところ。
歯医者さんの診察室で出会ったら、お互いにどきっ!!それからが大変......。
たった十四種類のことばしか出てこないのだが、その一つ一つを、わにさんと歯医者さんとが、違う立場で口にするところが、大人にとっても子どもにとっても、とても興味深い。
この本を読んだ子ども達はきっと歯医者さんを嫌がらなくなり、歯を良く磨くようになって、やがては歯医者さんに来なくなることだろう。
世界中の歯医者さんの診察室に置いてほしい本。
くまのテディ・ロビンソン
この話のどこにも「これはイギリスの話」とは書かれていないのだが、そのパステル画のような優しさの中に漂う気品とユーモアは、かぎりなく英国的である。
茶色いくまのぬいぐるみ、テディ・ロビンソンは、デボラという女の子と大の仲良し。
もちろんテディ・ロビンソンはお話もできる。空想の翼を広げ、一日中、心ゆくまで遊ぶデボラとテディ。そしてデボラが入院するとなるとテディにも本物の小さな寝巻を作ってくれるデボラのママ。
香り高いミルクティーのような、暖かい物語。
王妃マリーアントワネット
マリー・アントワネットの生涯は歴史的にあまりにも有名だが、これは遠藤周作によって書かれた、物語である。
史実に忠実で読み応えのある作品として、同じ新潮文庫から出ているアンドレ・モロア作『マリー・アントワネット』が有名なので読みくらべるのも一興だが、遠藤作のほうが会話などの表現も砕けていて、通俗小説のおもしろさがある。
マルグリットという同じ年ごろの少女を登場させて皇位にあるアントワネットと対比し、対抗させながら物語を進めてゆく遠藤周作の手法はみごとであり、楽しめる。
家庭版かみしばい いなばのしろうさぎ
紙芝居は、日本独自の文化。これならどんなに無精なお母さんでも、読み聞かせをせずにはいられない。
物語は、ご存じ大国主の命と白うさぎのお話。