1986年11月

 近ごろのニューファミリーとやらは、家族の個性を尊重して、食事もめいめいが違うものを食べると聞いて驚いた。子どもの個性を伸ばすことは、子どもに好きなことだけをさせておくことではない。親と一緒に食べてこそ、子どもは新しい味を覚えるのである。
 カレーとハンバーグの味しか知らぬ子どもに、好みの味だけ食べさせてどうなるのだろう。童話の楽しさを知らぬ子に、漫画ばかり買い与えるようなものである。

どろんここぶた

 おひゃくしょうさんのうちのこぶたは、どろんこが何よりも好き。おひゃくしょうのおじさんとおばさんにかわいがられて暮らしていたが、ある朝おばさんが大掃除を始めたから、さあたいへん。やわらかーいどろんこはなくなってしまったし、こぶたまでぴっかぴかにしてしまった。
「こんなうち、ぴかぴかすぎてつまらないや」と、こぶたは家を後にどろんこを見つけに出かけるが、町までやってきてやっと見つけたと思ったどろんこの中で身動きできなくなってしまう......。
 作者の暖かいまなざしが絵とお話の中にあふれているようで、子どもは母親のひざの上で、大好きなどろんこの中にいるこぶたの気分になるだろう。そして母親は、子どもからつい、どろんこを取り上げていることに気づくかもしれない。


どうぶつたちの夜

 動物の生態を描いた絵本はたくさんあるが、この本は一味違って、動物園に勤務する作者から子ども達へ送る"アニマルウォッチングの薦め"である。
 冬休みに山の温泉にでも行く機会があったら、寒さをこらえて一晩中起きていてごらん、いろいろな動物が現れるよ、と言う。まず猫が、肉食獣として紹介されているのもおもしろい。きつね、たぬき、いたち、てん、と出てくるが、海外ではもっとほかの動物が見られるだろう。
 裏の見返しに登場した動物達の実物大の足跡が描いてあるのも親切。


ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち

 題名から察するとこの本は児童向きのようだが、読み進むうちに、大人にも十分読みごたえがある物語だということが分かる。
 ある村で平穏に暮らしているうさぎ達。だが危険が迫っているという小さなうさぎ"ファイバー"の予感を信じた数匹が村を離れるところから、この話は始まる。
 森を抜け、川を渡り、ほかの群のうさぎ達と戦いながら、彼らはやがて新しい自分達の村を作る。命を助けたねずみやかもめを味方につけて、大きな危機から脱出するところでは、思わず力が入る。
 世界情勢を模していると評判になった本だが、中学生・高校生には、そのような読み方もできることだろう。


絵本 弁慶 (絵本のおくりもの)

 日本人として知っているべき物語の一つではないだろうか。版画である挿絵は、見ているだけでも迫力があり、弁慶の強さが感じられる。